千葉恵さん(北海道大学名誉教授・哲学専攻、登戸学寮寮長)
電子媒体を介してのひととの適度な距離の交わりは気楽なことでしょう。しかし、生身のひとは自分の殻に何とかして閉じこもろうとする動物です。身体をもったひとは空間を共有することによって、どれだけ独りよがりのイメージや思い込みが修正され、新しい発見に導かれることでしょうか。
ひとは社会のなかでしか生きていけないという当たり前のことを正面から引き受けるしかないのです。若いときならまだ自らの偏りは新しいものとの出会いによって修正可能であり、新しい自己の形成に自ら驚くこともあるでしょう。
私は春風学寮で人間関係の鍛錬をなされなかったなら、大げさでなしに今頃破滅していたことでしょう。少なくとも、こんなに豊かな恵みが注がれるそのような生を遂行することはできなかったでありましょう。それはひとえに人間関係の鍵語を学んだからでありましょう、それは「愛は恐れを取り除く」(聖書)です。