「東京電力の方が原発事故の説明をしてくださいました」

 

 春風学寮では、9月に福島に研修旅行に行くことになっています。その目的は、被災地の過去、現在、未来について学ぶことです。その柱の一つは当然原発事故になります。寮生の中には、実際に子供のころにその被害を受けた学生もあり、寮内では反原発の機運が高まっています。また、キリスト教の寮ということもあって春風学寮の周辺には、反原発を支持する人たちがたくさんいます。

 しかし、これでは研修旅行にはなりません。研修旅行を洗脳ではなく、客観的学習の機会にするためには、ぜひとも原発を推進する側の人たちの意見を聞かなければなりません。そこで春風学寮では、思い切って東京電力(TEPCO)に連絡し、研修旅行を有意義なものにするために、「ぜひ原発事故の過去・現在・未来を東電の方の目から説明してください」とお願いしました。すると東電の担当者の方は快く引き受けてくださり、原子力センターのリスクコミュニケーター(原子力発電の危険性や意義や可能性を一般の人に説明する部門の専門家)を派遣してくださいました。

 というわけで、7月13日日曜日の集会後には東電のリスクコミュニケーターの方が原子力発電について説明に来てくださいました。

 開口一番東電の方は、「私どもは意見をお話しするために来たのではなく、事実を報告するために来ました。私どもは事実を報告する説明会をできる限り開催しているのですが、そのような会に興味を持ってくれる一般の方はほとんどおらず、皆さんのように事実を知りたいと思っている学生さんたちに対して説明会を持てるのは、大変な喜びです」と語ってくださいました。

 そのうえで、「福島の原発事故において一番反省しているのは、原発は絶対安全であると過信していたために、事故が起こった場合の対策をほとんど立てていなかったことだ」と話を始めました。そして、地球温暖化が深刻である以上、ある程度は原子力に頼って発電せざるを得ないこと、しかし安全上の課題が大きいので徹底的な事故対策を立てておかなければならないこと、そのためには福島の事故を徹底的に検証しなければならないこと等をお話になられました。

具体的には、福島の事故の最大の問題は、津波の高さが想定外であったため、発電所内に水が流れ込み、原子炉の冷却装置を作動させるための電源がすべて使えなくなってしまったことであると報告されました。しかしさらに問題なのは、その後の対策が技術レベルにおいても、住民避難レベルにおいても、ほとんど準備されておらず、被害を拡大してしまったことだと報告なされました。

 続いて、事故後の処理問題についても説明してくださいました。放射能で汚染された土壌は、四分の三以上が再利用化のであるのにそれを受け入れてくれる自治体がないこと、汚水も国際的な安全基準値(IAEAの基準)よりもはるかに低い値に薄めて放出しているので全く問題がないのに、なかなかそれを理解してくれないことなどを話してくださいました。他方で、廃炉作業についてはかなり悲観的で、政府が定めた期限(2051年)前にはとても完了しないと漏らしておられました。ロボットを使えばよいという意見もあるが、炉心近くはロボットさえ機能を停止するほどの汚染であると。

 最後に、自分たちは福島の事故を反省してできる限りの安全対策を技術面でも住民避難の面でも立てているが、それでも国民の皆さんからそれを理解してもらうことは難しい。たとえ理解したとしても、それならうちの地域に原発を誘致してもいいと言ってくれる自治体はほとんどないと語り、話を終えられました。

 さて、寮生たちの反応はどうであったか。質疑応答の時間には、東電の方に敬意を表して大人しくしていましたが、その後の昼食の時には、議論百出。二時間くらい原発について賛否両論を交わしていました。これでこそ、福島研修旅行の準備ができたというものです。